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2008-06-07 [Sat]
親愛なるアルディ
この手紙を書いている今、あなたに対する気持ちは平常心をギリギリに保っている状態です。今晩あなたが傍にいてくれれば――、私を抱きしめ、添い寝をしながら“Have I Told You Lately That I Love You”を歌ってくれればと願っています。
今までの人生で私の夢にまで現れた男の人は、あなただけ。あなたが微笑みながら「ディンダ、今日の髪留め可愛いね!」と、ただそれだけを言ってくれることを待ちわび、恋しく想っています。
ああ、アルディ。あなたの傍にいたい! 愛しています!
愛をこめて
アディンダ
「呪われた手紙! 最悪!」
抱きしめた抱き枕を何度も叩きながら、私は罵り続けた。
想像してみてほしい。今日、リンダ――あの最悪な姉が、私の部屋を物色し、例の馬鹿馬鹿しい手紙を見つけたのだ。さあ、当ててみて。次にリンダが何をしたのか。なんと家中の人間にあの手紙を読ませたのだ!
ぎゃあぁぁぁぁぁ! こんちくしょっ!
今じゃ家中の人間があの最悪な手紙の文面を暗記して、私にコメントをつけてくる。
「ああ、アルディ。あなたの傍にいたい! 愛しています!」これはリザル――小学校6年生になったばかりの私の弟の台詞。
全然字が読めないはずの家政婦のイヤムまでがなんだかんだ言ってくる。「ディンダちゃん、あなたの手紙、どうしてキスマークがついてるの? 奥様の口紅でつけたんでしょ?」
私は本当に馬鹿だ! 昨日、お母さんの赤い口紅を使って、あの手紙にキスマークをつけた。それから、デオドラントで香りもつけてみた。さすがにリンダが誕生日に彼氏のランディからもらった香水を拝借する勇気はなかった。
手紙の上に涙を落とす必要があるかないかまで考えていたぐらいだ! だけど、ありがたいことにわざわざ韓流ドラマを見ずにすんだわ。だって、今日の出来事で十分泣いたから……ちくしょう、あの手紙のせいで!
あの手紙についてなんにも言ってこないのはお父さんだけ。私の気持ちを分かってくれたのかも。いや、待て! 普通に考えて、あの必要以上に過保護でお堅い父親が急に14歳の娘の気持ちを理解するようになったなんて信じられない。リンダでさえ彼氏とおおっぴらに付き合えるようになったのは高校を卒業してから。まだ中学生の私がこんなに早く親の同意を得られるなんて、ありえるの?
「ディンダ? お父さんが書斎で待ってるよ」
おいでなすった!
死んじゃう!
世界の終わりだ!
「ディンダ? お父さんに呼ばれてるのよ」
お母さんの声が部屋の外から聞こえる。神様、どうしたらいいの? 自殺するしかない! あるいは、家出! でも、どこへ? 他の惑星に飛んでいったって、お父さんからは逃げられない! きっと私を探し出して、家に監禁するんだ! いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
書斎に向かう足取りがふらつく。冷や汗が流れ始めていた。息が上がって、心臓がバクバク。気持ちが重くて死んじゃいそう!
「ディンダ。あの手紙のことを手短に正直に言ってくれるかな。アルディっていうのは誰なんだい?」
私が書斎に入り、目の前に座るとお父さんが口を開いた。
「えっと……、アルディは……、クラスメート」
どもりながら、なんとか答えた。
「いつから付き合ってるんだ?」
「付き合ってなんかないよ!」 私は急いで答えた。「それに、アルディは私の気持ちなんて知らないもん」
「じゃあ、あの手紙は……」
「手紙はもう捨てた!」
お父さんの話の腰を折る。
「捨てた? なんで相手に渡さなかったんだ?」
奇妙な微笑を浮かべながらお父さんが言った。
この質問にはすごく驚かされた。想定外! 付き合ってもいいってこと? でも……、そ……そんなはずないよね! 想像の翼を広げすぎた! こんなのありえないよ! 起こりっこないもん!
「目的があるなら、途中で頓挫するもんじゃない。最後までやり通すんだ。ほら、行きなさい。手紙は明日相手に渡すんだぞ」
えっ? 口をぽかんと開けたまま、私はお父さんの顔を見つめてしまった。
不思議な力が私の中に溢れ始めた。あの手紙をリザルディ・リハワに渡す勇気が、この内向的で人付き合いの悪い私に満ちてきた。リザルディ・リハワ――私の学校で一番人気のある男の子。
うふふふふふふふ……。
次の日、私は手紙をニナに預けた。ニナに手紙を渡した時、私の胸は早鐘のように鳴っていた。怖くてたまらない。もしもアルディに無視されたらどうしようって。そんな全く理由にならない理由で、私は2日も学校を休んでしまった。
学校を休んでいる間、私はアルディと関係のある物を全部自分から遠ざけていた。それだけじゃなくて、ニナからの電話も気にしないようにしていた。でも、ついに、ニナが家にやってきちゃった。
あの手紙をアルディに渡した時のことをニナが話してくれた。信じられないことに、アルディは私の手紙を学校中にばらまいたのだ! あの手紙は学校で最高の話の種になってしまった。ニナが嘘をついているだけだと祈りながら、私は手紙につけた赤いキスマークのことを考えていた。
は、恥ずかしすぎる!
恥ずかしさを忘れるのに1週間は必要だった。心の中で手紙を渡させたお父さんを責めた。でも、本当は気づいてたんだ。なんでお父さんがあんなことさせたのか。内気な私を強くて、勇気があって、顔を上げて現実と向き合える綺麗な女性にしたかったんだと思う。
結果は……? ご覧のありさまよ!
1週間後、やっとこ登校した。そうしたら、びっくり。アルディが「ディンダ、今日の髪留め可愛いね!」って私に挨拶してくれたんだから。夢が現実になったのよ。だけど、私が通り過ぎると、アルディは友達とゲラゲラと笑いだした。そう。彼は私のことをからかっただけ!
終業式まで、このクラスでよく頑張り通したと我ながら感心しちゃう。
学年が替わって2ヵ月後。信じられないけど、私はアルマンドを好きになって付き合うことになったんだ。
今ではお父さん――相変わらずの石頭だけど――に感謝している。もちろん、アルマンドのことはまだ内緒にしているけどね。お父さんは私に大切なことを教えてくれた。周囲に笑わるようなことがあっても、顔を上げて前に進む勇気を持つこと。もうアルディのことを振り返って、くよくよする私じゃない。
色鮮やかな学生生活を突き進むための強い力をつけてくれた父。ありがとう。
【終】
作 者 Dini Ayu Putri D.
書 名 ayah dan surat cintaku (雑誌“CeritaKita”より)
出版社 PT Penerbit Herakles Indonesia
日本語翻訳権 KARINA有
ランキングに参加中
この手紙を書いている今、あなたに対する気持ちは平常心をギリギリに保っている状態です。今晩あなたが傍にいてくれれば――、私を抱きしめ、添い寝をしながら“Have I Told You Lately That I Love You”を歌ってくれればと願っています。
今までの人生で私の夢にまで現れた男の人は、あなただけ。あなたが微笑みながら「ディンダ、今日の髪留め可愛いね!」と、ただそれだけを言ってくれることを待ちわび、恋しく想っています。
ああ、アルディ。あなたの傍にいたい! 愛しています!
愛をこめて
アディンダ
「呪われた手紙! 最悪!」
抱きしめた抱き枕を何度も叩きながら、私は罵り続けた。
想像してみてほしい。今日、リンダ――あの最悪な姉が、私の部屋を物色し、例の馬鹿馬鹿しい手紙を見つけたのだ。さあ、当ててみて。次にリンダが何をしたのか。なんと家中の人間にあの手紙を読ませたのだ!
ぎゃあぁぁぁぁぁ! こんちくしょっ!
今じゃ家中の人間があの最悪な手紙の文面を暗記して、私にコメントをつけてくる。
「ああ、アルディ。あなたの傍にいたい! 愛しています!」これはリザル――小学校6年生になったばかりの私の弟の台詞。
全然字が読めないはずの家政婦のイヤムまでがなんだかんだ言ってくる。「ディンダちゃん、あなたの手紙、どうしてキスマークがついてるの? 奥様の口紅でつけたんでしょ?」
私は本当に馬鹿だ! 昨日、お母さんの赤い口紅を使って、あの手紙にキスマークをつけた。それから、デオドラントで香りもつけてみた。さすがにリンダが誕生日に彼氏のランディからもらった香水を拝借する勇気はなかった。
手紙の上に涙を落とす必要があるかないかまで考えていたぐらいだ! だけど、ありがたいことにわざわざ韓流ドラマを見ずにすんだわ。だって、今日の出来事で十分泣いたから……ちくしょう、あの手紙のせいで!
あの手紙についてなんにも言ってこないのはお父さんだけ。私の気持ちを分かってくれたのかも。いや、待て! 普通に考えて、あの必要以上に過保護でお堅い父親が急に14歳の娘の気持ちを理解するようになったなんて信じられない。リンダでさえ彼氏とおおっぴらに付き合えるようになったのは高校を卒業してから。まだ中学生の私がこんなに早く親の同意を得られるなんて、ありえるの?
「ディンダ? お父さんが書斎で待ってるよ」
おいでなすった!
死んじゃう!
世界の終わりだ!
「ディンダ? お父さんに呼ばれてるのよ」
お母さんの声が部屋の外から聞こえる。神様、どうしたらいいの? 自殺するしかない! あるいは、家出! でも、どこへ? 他の惑星に飛んでいったって、お父さんからは逃げられない! きっと私を探し出して、家に監禁するんだ! いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
書斎に向かう足取りがふらつく。冷や汗が流れ始めていた。息が上がって、心臓がバクバク。気持ちが重くて死んじゃいそう!
「ディンダ。あの手紙のことを手短に正直に言ってくれるかな。アルディっていうのは誰なんだい?」
私が書斎に入り、目の前に座るとお父さんが口を開いた。
「えっと……、アルディは……、クラスメート」
どもりながら、なんとか答えた。
「いつから付き合ってるんだ?」
「付き合ってなんかないよ!」 私は急いで答えた。「それに、アルディは私の気持ちなんて知らないもん」
「じゃあ、あの手紙は……」
「手紙はもう捨てた!」
お父さんの話の腰を折る。
「捨てた? なんで相手に渡さなかったんだ?」
奇妙な微笑を浮かべながらお父さんが言った。
この質問にはすごく驚かされた。想定外! 付き合ってもいいってこと? でも……、そ……そんなはずないよね! 想像の翼を広げすぎた! こんなのありえないよ! 起こりっこないもん!
「目的があるなら、途中で頓挫するもんじゃない。最後までやり通すんだ。ほら、行きなさい。手紙は明日相手に渡すんだぞ」
えっ? 口をぽかんと開けたまま、私はお父さんの顔を見つめてしまった。
不思議な力が私の中に溢れ始めた。あの手紙をリザルディ・リハワに渡す勇気が、この内向的で人付き合いの悪い私に満ちてきた。リザルディ・リハワ――私の学校で一番人気のある男の子。
うふふふふふふふ……。
次の日、私は手紙をニナに預けた。ニナに手紙を渡した時、私の胸は早鐘のように鳴っていた。怖くてたまらない。もしもアルディに無視されたらどうしようって。そんな全く理由にならない理由で、私は2日も学校を休んでしまった。
学校を休んでいる間、私はアルディと関係のある物を全部自分から遠ざけていた。それだけじゃなくて、ニナからの電話も気にしないようにしていた。でも、ついに、ニナが家にやってきちゃった。
あの手紙をアルディに渡した時のことをニナが話してくれた。信じられないことに、アルディは私の手紙を学校中にばらまいたのだ! あの手紙は学校で最高の話の種になってしまった。ニナが嘘をついているだけだと祈りながら、私は手紙につけた赤いキスマークのことを考えていた。
は、恥ずかしすぎる!
恥ずかしさを忘れるのに1週間は必要だった。心の中で手紙を渡させたお父さんを責めた。でも、本当は気づいてたんだ。なんでお父さんがあんなことさせたのか。内気な私を強くて、勇気があって、顔を上げて現実と向き合える綺麗な女性にしたかったんだと思う。
結果は……? ご覧のありさまよ!
1週間後、やっとこ登校した。そうしたら、びっくり。アルディが「ディンダ、今日の髪留め可愛いね!」って私に挨拶してくれたんだから。夢が現実になったのよ。だけど、私が通り過ぎると、アルディは友達とゲラゲラと笑いだした。そう。彼は私のことをからかっただけ!
終業式まで、このクラスでよく頑張り通したと我ながら感心しちゃう。
学年が替わって2ヵ月後。信じられないけど、私はアルマンドを好きになって付き合うことになったんだ。
今ではお父さん――相変わらずの石頭だけど――に感謝している。もちろん、アルマンドのことはまだ内緒にしているけどね。お父さんは私に大切なことを教えてくれた。周囲に笑わるようなことがあっても、顔を上げて前に進む勇気を持つこと。もうアルディのことを振り返って、くよくよする私じゃない。
色鮮やかな学生生活を突き進むための強い力をつけてくれた父。ありがとう。
【終】
作 者 Dini Ayu Putri D.
書 名 ayah dan surat cintaku (雑誌“CeritaKita”より)
出版社 PT Penerbit Herakles Indonesia
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